iTeen武庫之荘校

「やりたくてたまらない」は、育てられる
― 子どもの中にある種を見つけて、育てるということ

皆様、お世話になっております。プログラミング教室、教室長の彦阪です。

教室を続けるなかで、私の本質的な仕事は何なのかを日々考えております。今の答えはこうです。

子どもの夢を見つけるお手伝いをすること。わくわくさせること。「やりたくてたまらない」という状態に持っていくこと。

プログラミングを教えるのは、そのための手段です。今回は、この考えについて書いてみます。

種は、もともとその子の中にある

「やる気を出させる」という言い方がありますが、私は少し違うと思っています。 やる気は、大人が外から押し込むものではありません。種は、もともとその子の中にあります。

大人にできるのは、その種を見つけて、育ちやすい環境を整えて、ときどき助言をすることです。 育つのは、あくまでその子自身です。

そして、本当にわくわくすることが見つかると、子どもは自分から動き始めます。 夜ふかしして作品を作っていた子が、続きをやりたくて朝早く起きるようになる。そんなふうに、生活のリズムまで変わっていくこともあります。 夢中になれるものとの出会いは、生き方そのものを変える力を持っていると私は感じています。

人が自分から動き出す、3つの条件

では、人はどんなときに「やりたくてたまらない」と感じるのでしょうか。 心理学者のデシとライアンは、人が内側からやる気を持つには、次の3つが満たされていることが大切だと整理しています(自己決定理論)。

  • 自分で選んだと感じていること(自律性)
  • 自分にもできると感じていること(有能感)
  • 誰かとつながっている、信じてくれる人がいると感じていること(関係性)

夢を見せるだけでは足りないのです。「この夢は自分のもので、自分にも届きそうで、一緒に走ってくれる人がいる」。 そう思えたとき、はじめてわくわくが行動に変わります。

わくわくを育てる、5つの関わり方

この3つの条件を満たすために、私が大切にしている関わり方を5つの段階に分けてみました。

1. 掘る ― まずは聞く

種を見つけるには、こちらが話すより、聞くことです。8割は聞く側に回るくらいがちょうどいいと思っています。

  • 時間を忘れて夢中になったことは何?
  • 最近、何に腹が立った?(怒りの裏には、大事にしているものがあります)
  • 「この人みたいになりたい」と思う人はいる?

2. 言葉にして返す ― その子の言葉で

聞いたことを、その子自身の言葉で描き直して返します。 ここで大人の夢を押し付けてしまうと、それはもう、その子の夢ではなくなってしまいます。 ここは、私たち講師がついやってしまいがちなところです。つい話しすぎてしまったり、過去に教えた子と比べて、講師の経験則でその子の将来を決めつけてしまったりすることがあります。 主役はあくまでその子で、講師ではありません。だからこそ、聞くことに徹します。

3. 本物を見せる

言葉だけでは、夢はなかなか具体的になりません。実物に触れたり、実際にそれを作った人に会ったりすると、夢が急に手の届くものになります。 幸村誠さんの漫画『プラネテス』に、スランプに陥った主人公を、大好きな開発中の機械の前に連れて行くと、触れた瞬間に電流が走ったようにやる気がみなぎる場面があります。たとえがマニアックで恐縮です。 人は、日々の積み重ねで気づいたら大きく変わっていた、ということもあれば、何かをきっかけにがらりと変わることもあります。きっかけは、積み重ねが花開くための引き金ともいえます。 自分の直観に従い、好奇心の向く方へどんどん舵を切っていけば、きっと素晴らしいところにたどり着けます。もちろん、他人の夢や想いを邪魔しない範囲で、ですが。

私自身、学生時代にJAXAのインターンに参加したとき、膨大な実験データの整理に苦戦し、VBAなどExcelの使い方を質問したところ、「お前はExcelのようなツールを作る側の人間になるんやろ」と返されたことがあります。 本物の現場で、本物の作り手から言われたその一言が、「使う側」から「作る側」へ目を向けるきっかけになりました。 教室でも、ゲームやアプリを「遊ぶもの」から「作れるもの」へと見方が変わる瞬間を、たくさん作りたいと考えています。

4. 小さく勝たせる

最初の一歩は、今日のうちにできる大きさにします。キャラクターが1歩動いた、音が鳴った。それだけで十分です。

心理学者のバンデューラは、「自分にはできる」という感覚(自己効力感)を育てるいちばんの源は、自分でやり遂げた経験だと述べています。 小さな「できた」の積み重ねが、次の挑戦への力になります。

5. 環境を整える

習慣を変えるのは、決意よりも環境です。いつ、どこで、誰とやるのか。 通う曜日と時間が決まっていて、同じように作品を作っている仲間がいる。そういう「続けられる場」があることが、教室の大切な役割だと思っています。

大人のほうこそ、わくわくしていたい

子どもにわくわくしてほしいなら、まず大人がわくわくしていることです。 子どもは、言葉よりも大人の背中をよく見ています。

幕末の教育者・吉田松陰は「志を立てて以て万事の源と為す」という言葉を残しました。志を立てることが、すべての始まりだということです。 松下村塾から多くの若者が巣立っていったのは、松陰が知識を教えたからというより、一人ひとりの志に火をつけたからではないかと私は考えています。

同時に、すべての子がすぐに変わるわけではないことも分かっています。 種が芽を出す時期は、一人ひとり違います。だからこそ焦らず、信じて待つことも、大人の大切な仕事だと思います。 「教育とは、流れる水の上に文字を書くようなものだ。それでも、岩に文字を刻むような真剣さで取り組まなければならない」という言葉があります。私は、これは真理だと思います。 そのときはその子に響かなくても、少し成長してから、あるいは大人になってから、何かの形で生きてくることがあります。それが講師のおかげだと気づかれなくても、まったくかまいません。

おわりに

プログラミング教室は、コードの書き方を覚える場所である前に、「作るって楽しい」「もっとやりたい」と感じる場所でありたいと考えています。 その気持ちさえ育てば、技術はあとから必ずついてきます。

これからも、一人ひとりの中にある種を見つけ、育てていけるよう、子どもたちと向き合ってまいります。

出典・参考

  • Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000) "Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being." American Psychologist, 55(1), 68–78.(論文ページ)
  • Bandura, A. (1977) "Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change." Psychological Review, 84(2), 191–215.(論文ページ)
  • 吉田松陰「士規七則」(1855年)。「志を立てて以て万事の源と為す」はその一節です。
  • 幸村誠『プラネテス』(講談社)。
  • 記事中の5つの関わり方は、上の研究を参考に教室長が整理したもので、研究そのものが示した手順ではありません。
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